Japan House London

卒業生からのメッセージ
〜時を超えてつながろう〜
美美コースと、その前身の美術史ゼミの卒業生のメッセージ・進路を紹介していきます。

2023年春・卒業生の声から

  • 文学部の学修内容は、他の学部(例えば法学部や商学部など)と比較すると直接結びつく職業が限られるため、良い意味で職業を選ぶ際の自由度が高いように感じました。だからこそ選択肢が多く、業界選びに苦労したため、美美コースの後輩の皆さんは早い段階から幅広く様々な業界を見ておくといいと思います。(コンサルティング)
  • 興味100%で美美コースを選択しましたが、美術だけでなく社会と美術の繋がりなども学べたため、そこから現在の就職先を見つけることが出来ました。授業の中で挙がったUNIQLOの美術館提携事業に感銘を受けたので就職先に決めました。美術を起点に様々なことに視野を広げることができるコースだと感じております。(アパレル)
  • ゼミで学んだことが就職活動で活かせたり、反対に就職活動をしてきて身についたことがゼミやその他の授業で活かせたり(卒論の口述試験など)という場面が多々ありました。そのため、勉学はもちろんのこと、進路という観点からも充実した大学生活が送れたのかなと思いました。(環境・設備機材)
  • 中央大学大学院に進学する予定であり、これまで以上に専門的な学修を行えることが楽しみです。(中央大学大学院文学研究科)
  • 研究する楽しさを卒論で感じられました。(中央大学大学院文学研究科)
  • 学芸員資格課程の博物館実習時に地方公務員の方にお世話になり、公務員でも美術に関わる仕事が出来る可能性があることが判明したので公務員を目指しました。結果的には別な専門性の高い官庁を選びましたが、今後も美術を楽しみたいと思います。(中央官庁)
  • コース科目での学びを活かし、化粧品メーカーなど感性に訴えかけるような商材やサービスを提供する仕事がしたいと考えていました。(広告マーケティング)
  • アートに直接・間接にかかわる職種は、多岐にわたります。その一部が、次のサイトで紹介されています。ぜひご覧ください。「アートのお仕事図鑑」(in ネットTAMトヨタが企業メセナ協議会と連携して運営する、アートマネジメントに関する総合情報サイト)
  • note掲載のゼミ卒業生インタビューもご覧ください。「Konelのアートってなんですか?人情派キュレーターが考えるその未来
吉田和佳奈さん (キュレイターズ勤務)/ 美術史ゼミ6期生(2016年度卒業)|中央大学大学院修士課程修了(2018年度)
学芸員課程講演会の講師として。
このあとウィーン出張に直行!

 こんにちは。
 この度はサーリネン展に足をお運びいただき、またご丁寧にご連絡をいただきましたこと、心よりお礼申し上げます。
 作品についても、会場についても、ここはぜひ注目していただきたい!というところ全てご感想をいただけて、企画側としてはこれ以上ないくらい幸せなことと思っております。
 図録については、まとまった形の文書を書いたのは修論以来という状況でして、拙い解説でお恥ずかしいかぎりです。
 実を言いますと、ヘルシンキには2019年に旅行で行ったことがあり、その際に撮影した写真をいくつか図録でも使っていただいております。国立博物館の天井画や、中央駅のホールの写真などです。
 ヘルシンキは街全体がゆったりとしていて、人も朗らかで、とても良いところです。自由に海外へ行けるようになったらぜひ訪れていただきたい場所でもあります。先生もきっと気に入られると思います。
 余談ではございますが、今回展覧会にご協力いただいているフィンランドセンターが主催で、関連イベントとしてサーリネンに関するオンラインレクチャーが開催されることになりました。図録にもご寄稿いただいた、サーリネンの専門家のティモ・ツオミさんもご登壇されるようで、非常に充実した内容となりそうです。もしご都合よろしければ、ご参加いただけますと幸いです。
 私は昨日から別展覧会の作業のため出張に出ているのですが、いままさに作品輸送のトラックからお返事を書いております。目的地は萩です。名古屋を出発し、ようやく滋賀まで来ました。知らない場所へ行って仕事をするのは、いつもわくわくします。今後も企画した展覧会を先生にご案内できるよう、がんばりたいと思います。
 また直接お目にかかってお話しできますこと楽しみにしております。

佐藤千華さん (Japan House London・在ロンドン)/ 美術史ゼミ9期生(2019年度卒業)
 

 ご無沙汰しております。大学を卒業してからしばらくイギリスがロックダウンになってしまいビザ関連で渡英ができず8月上旬にやっとイギリスに来ることができました。 9月中旬にJapan House London という日本の文化を正しく発信する文化施設のギャラリースタッフとして正社員採用され働き始めました。Japan House は外務省管轄のプロジェクトの一つでロンドンの他にサンパウロとロサンゼルスにもある施設です。日本の伝統工芸品をショップで販売したり、日本の芸術にまつわる展覧会をギャラリーにて開催したり、和食を提供するレストランなどもあります。 様々な要素のある施設ですが「正しく日本の文化を発信する」というミッションの元で成り立っている細部まで妥協のない施設です。
 ギャラリースタッフでの採用だったのでお客様のギャラリー体験が良いものになるように作品解説したり、作品に対しての感想を引き出したり、とゼミ生間で行っていたようなことを今度はJHLに来てくださったお客様と短い時間ではありますが行っています。私は専門家ではないので勉強内容はすごく沢山ありますがゼミでの経験を生かして働けていることをすごく誇りに思っていますし毎日様々な意見を耳にすることができてとても楽しく働いています。
 現在は「犬のための建築展」という原研哉さんがディレクションしている建築プロジェクトの展覧会を行っています。この展覧会の面白い点は隈研吾さんや藤本壮介さんといった建築家が犬のために設計した建築を観察することができるだけでなく、設計図をダウンロードして自分で作ることができる点です。またペットのワンちゃんも来場可能な点もすごく面白いなと思っています。私たちは時にワンちゃんが暴れてヒヤッとすることがありますが… 。また、JHLの空間ディレクターが片山正道さんであったり図書室のブックキュレーターが幅允孝さんであったりと洗練された場なので「働いている」というよりかは本当に多くのことを「学んでいる」日々です。日本人なのに全然知らなかったことが山ほどあって英国出身の日本学科専攻卒の同僚に教えてもらってることも沢山あります。ゼミの後輩にはこんな進路もあるんだなあと参考になれれば幸いです。

Japan House London / Shop
尼野玲菜さん(広告代理店・赤坂)/ 美術史ゼミ9期生(2019年度卒業)

 いきなりですが、皆さんは「美術史ゼミ」と聞いてどんなゼミだと想像したでしょうか?「美術の歴史を座学で学ぶ」「芸術家の生涯について調べる」…?なんとなく受動的なイメージを思い浮かべた人もいるのではないでしょうか。しかし「この美術史ゼミ」はかなりアクティブだと思います。このゼミは教室での議論と発表に加えて実際に美術館を見学することを通して、美術の歴史や美術館への理解、関心を深めます。具体的には、後期に行われるレクチャー(ゼミ生が行う講義)担当の「講義班」と、やはり後期実施の美術館見学の計画を立てる「見学班」に分かれて活動していきます〔註:2021年度現在では、別な研究班構成をしています〕。もちろん講義はみんなで聞き、見学は全員参加なので、班に別れてもお互いの活動に参加していくことになります。
 ここで、私がこのゼミで重要だと思うことをお話しします。それは「グループワークに積極的に取り組む」ということです。各班の選ぶテーマは先生から与えられるものではなく、自分たちの関心や疑問から議論を重ねて決めていくものになるからです。実際にやってみると、このテーマ決めは予想以上に大変で、かつ楽しいものだと分かりました。私は「講義班」を選んで班員とテーマについて議論をしていたのですが、意見を自分の中でうまくまとめることができなかったり相手に的確に伝えることができなかったりと、もどかしい思いをしたことが何度もありました。それは私だけではなく班員も同じようでした。そのような経験を何回かゼミで繰り返していたある日、班員の一人の何気ない発言から議論が膨らみテーマが決まったのです。それは自分1人だけでは絶対に考えつかなかったテーマであり、この経験は私にグループで学ぶ面白さを教えてくれるものになりました。
 さて、そもそも「美術ってなんか難しそう」「知識を持っている人じゃないとわからないでしょ」と思っている人もいるかもしれません。しかしそんなことはありません。必要なのは作品を観察することです。私はそれを、2年次に受講したフランス文化入門演習〔現在の「美術史美術館入門演習」〕で学びました。この作品観察力は、教われば着実に成長していきます。そして観察の仕方は一度身につけば、受験勉強の英単語のように忘れて思い出せない、なんてことはなく一生使うことができます。さらに観察したことを他者に伝える力も身につきます。ものごとを多角的に客観的に捉える観察という力と、観察したことを他者に伝える力を養うことは、美術の枠にとどまらず、日常のあらゆる場面で役立ちます。
 最後にメッセージになるのですが、自分に合ったコースをとことんきわめて、限られた大学生活を実りあるものにしてほしいと思います。

前原佳奈さん((株)ルック)| 福元真澄さん(三鷹市役所)/ 美術史ゼミ6期生(2016年度卒業)

「美術史ゼミ」と聞くと、芸術家や美術の歴史を学ぶ座学を想像される方が多いと思いますが、このゼミの特徴は、研究対象が「美術館」であるということ、それに伴い大学外、いわゆる公共の場に出る機会が多いという点です。おそらく今までは、美術館へは絵画を鑑賞するためだけに訪れていたことでしょう。しかし見学班にとっての美術館を訪れる目的は、館内の構造や美術館側の運営、規模や立地条件といった作品を取り囲む環境に目を向けることです。
 私たち見学班6期生は「美術館の親しみやすさとは何か」というテーマを掲げ、世代・嗜好問わず誰もが訪れたいと思う美術館像について研究を進めました。その結果、それぞれの美術館で「親しみやすさ」を観客に与えるアプローチが工夫されていることがわかりました。例えば、カフェの併設やイベント企画、スタッフ数や館内のレイアウトなど、取り扱う作品に合わせてより来館者の満足度を上げる工夫が美術館ごとの条件に従って徹底されています。美術館という空間そのものに焦点を当ててみることが、より深い作品への理解に繋がっていくのです。
 この研究がキッカケで、美術館に限らず外出する先々で、そこにある‟モノと空間”に目を向ける習慣が身につきました。そしてその習慣が私の就職活動でも非常に役に立ちました。空間プロデュースのアートフリーク社にも関心があったのですが、私は元々ファッションに興味があったことから、アパレル企業への就職を選びました。中でもMD(マーチャンダイザ―)という企画側の仕事に入り、商品だけでなく店舗も考案していきたいという将来像を持っており、実際に店舗に足を運び商品や店内のレイアウト、販売員の対応について比較・検証を進めていました。そこで気付いた点は面接での対話をより充実させ、興味を持って耳を傾けて下さる方が多かったです。結果、念願の企業から総合職として内定を頂くことができました。
 この‟モノと空間”に目を向ける習慣はアパレル企業に限らず、様々な企画の場面に繋がっていくものだと思います。美術館を出発点として、人々が集まる公共の場で感じたことを互いに出し合い、新たな視点に立つことができる阿部ゼミでの活動は、大学生活の中で最も印象に残っている出来事の一つです。(前原さん)
 皆さんは、絵に見方があるということをご存知でしょうか。美術史ゼミは、絵の見方を学ぶところからスタートします。これは、好きな部分だけ見ていてはダメというわけではありません。見方を変えれば、一つの作品をもっと深く理解することができるのです。客観的な見方で見てみたり、この絵が描かれた時代や、モチーフに注目したり、見方が変わればアーティストの隠したいろいろなメッセージに気づくことができるのです。この体験は、絵画鑑賞のみに留まらず、様々な場面において物事を多角的に捉える力を養うことができます。
 作品観察の仕方が定着してきたら、このゼミでは見学班と講義班の二つのグループに分かれて活動を行います。見学班は、年三回行われる美術館見学を取りまとめ、見学先の美術館や作品のリサーチをし、講義班は自分たちの研究したいテーマにフォーカスして美術史を研究していきます。その際、両班とも研究結果を発表するのですが、美術史ゼミのすごいところはその質問力です。発表をただ聞いているのではなく、もっと追求して研究すべき点、腑に落ちない点、などなど率先して発言をしています。これは、授業ではもちろん、就職活動のグループディスカッションにも生かせる点だと思います。また、ゼミで活動を続け美術の知識が増えれば増えるほど、質問の質が上がるので、発表のレベルも上がっていきます。
 さて、私は見学班に所属していたのですが、見学班では常設展や見学する時期に開催している企画展について調べるのももちろんですが、美術館の施設そのものや、そこで行われるサービスについて学んでいきます。そのため、建築について学ぶことができますし、子どものためのプログラムや、バリアフリーという観点からも美術館を見ることができるのです。そのため、社会・生涯教育について学ぶこともできるのがこのゼミの強みです。このゼミでの経験に影響され、美術館のように様々な人々と関わり、サポートができる仕事に就きたいという思いから私は公務員として現在働いております。その上、美術史ゼミに所属していた経歴があってなのか、同じ社会教育施設の公立図書館に勤務することとなりました。今後は、ゼミで学んだモノの見方を生かして図書資料を選別したり、施設・サービスの工夫を自分の現在の職場に置き換えたりしていきたいと考えています。そういった意味では、美術史ゼミは幅広い職種に生かすことのできる力を養える場であったと思います。(福元さん)

佐伯綾香さん(福岡銀行)/ 美術史ゼミ5期生(2015年度卒業)

“新たなわたしを見出してくれたかけがえのない場所です”
 「美術」と聞いてどんなことが浮かぶでしょうか。敷居が高い、近づきにくい、よくわからない…「コアな人の嗜み」という印象を持つ人も多いでしょう。美術に触れずとも、生活に困ることはないのです。きっかけがなければ、その世界を知らずに人生を終える人もいるかもしれません。
 私が初めて美術と出会ったのは、物心ついたころ。たまに家族で美術館を訪れていました。思い出深いのは、帰りの車の中の空気感です。思い思いの感想を打ち明け、共有しました。「お母さんにそっくりな女の人がいた!」家族に重ねて絵を観察したこともあったそう。声が弾み、笑顔で溢れ、車内は幸せな空気に。幼いながら、その時間が好きだったのです。
 知識も教養もなく、作家に詳しいわけでもありません。昔の記憶がよみがえり、飛び込んでみたいという直感に導かれるようにしてこのゼミに入りました。ゼミ活動では、時代背景を含め作品の着眼点を学ぶ講義と、社会とのつながりを直に感じられる実践活動とがバランスよく組み合わされていました。中でも、美術館見学に訪れる時間は、学びの連続でした。自分の目で見て、人から話を聴いて得たものを糧に、仲間と共に考察を深めます。感じ方や切り取り方は様々です。正解のない問いに対し、考えを持ち寄り見つめる時間はとても有意義なものでした。大学では、就職戦線を勝ち抜ける専門性を磨くべき、そんな考え方もあるでしょう。しかし、それがすべてではないかもしれないと思わせてくれる瞬間に出会いました。作家の意図をくみ取ろうと、作品に向き合う時間。地域社会におけるアートの可能性を考える時間。どの活動の根底にも、他者を慮る姿勢が表れています。人として大切なことが詰まっていたのです。「感性が磨かれていく」実感があり、その感覚が自分を突き動かす源になっていました。
  卒業後も、美術や芸術への関心は深まっています。室内外を問わず、空間全体からエネルギー溢れる美術館が大好きです。非日常をゆっくりと味わう時間は、贅沢だと感じるのです。日々を生きることに一生懸命で、自分を客観視するのが怖いってこと、ありませんか。私は、感じるときがあります。このまま過ごしていたほうが楽だなあ。でも、心の中では見つめたほうがいいという自分がいる。そんなとき、私は、美術館という空間を無意識に求めている気がします。作品と向き合うとき、一瞬かもしれないけれど、自分がまっさらな状態になるのです。抱えているものが浄化されたような気持になって。そしてじっくり見つめてみると、過去の出来事がよみがえってくる。お世話になった人の顔が浮かんだり、当時の感情を思い出したりして胸が締め付けられて。全く関係のなさそうな絵なのに自分と重なる、とっても不思議な感じです。でも、その時間が心地よくて。今ある自分に感謝できることが多々あります。もし隣でだれかも一緒に見つめているなら、ぼそっと思いを吐き出してみるのもいいです。思いもよらない連鎖反応が起きることもあります。
 自分の気持ちに正直になり、誰かに伝えてみる。人と人とのつながりの希薄さが顕著なこのご時世の中、私はとても大切なことではないかと思います。テレビや新聞で日々報道される痛ましく悲しい事件、その根底にあるのは「認めてもらいたい」「自分を大切にされたい」という人間の欲望そのものだと思います。周囲に打ち明けられていたら救える命があったかもしれないという例も後を絶ちません。世の中に生きる人が、自分を愛し、他者を思いやれる心の持った人でいっぱいならば、社会は少し変わるかもしれません。そして、そんなきっかけが美術や芸術を通して作れたなら、と私は思う瞬間があります。人が生きていく中で、芸術が作用できることもあるのでは。そう思うと、目に映るもの、人との出会い、何気ない日常も、すべてが考えるすべになります。誰かに与えられたからではなく、自らの興味に突き動かされる日々は充実しています。
 ゼミ活動の時間が、人生を通して考察したいテーマとの出会いになりました。限りある人生の中でそうした興味に出会えたことは、幸せなこと。大切にしたいと実感しています。感謝の気持ちでいっぱいです。少し気になった方、ぜひ門をたたいてみてください。美術史ゼミが長きにわたり続いたならば、いつしか年齢の垣根を越えて同じ時を共有できる日が訪れるかもしれませんね。その日を楽しみに、今日もまた好奇心をもって実りある時間を過ごそうと思います!

関根美穂さん(旅行関連会社・銀座)/ 美術史ゼミ4期生(2014年度卒業)

 美術史ゼミでは、まずは絵画を観察することからスタートします。絵画をみてきれいだな、色合いが素敵だな…といった芸術鑑賞とは異なり、もっと深くまで観察できる基礎の部分を身につけていきます。観察するとは、深く細かく観ていくことです。例えば、2枚の人物画を比較します。1枚目の人物の肌は、筋肉の付き方や血管までリアルに描かれていて、2枚目の人物の肌は、陶器の様に滑らかで、人間味の感じられない、冷たそうな肌という風に、時間をかけて観察していきます。そこから、当時の社会背景との繋がりを学んだり、特徴を読み取ったりすることができます。私はゼミに入るまで、絵画の表面的な部分しか見ていなかったことに気づきました。観察力を鍛えていくと、絵画を観て、様々な疑問や気になる部分が見えてきます。すると、気になったことを文献で調べて見たり、同じ時代の作品と比べてみたりと、自然にもっと知りたくなるのです。美術館で作品を観ることが楽しくなっていくのを、少しずつ実感しました。
 観察の基礎を身につけると、いよいよ講義班と見学班に分かれます。私が所属していた講義班では、「人体表現の変遷」をテーマに、研究していきました。時代毎に担当を割り振り、テーマに沿って文献等を用いて研究していきます。最終的には、皆にプレゼンテーションをします。講義班では、ただ美術史の歴史を学び、それを発表するのではありません。テーマを絞ってグループでディスカッションし、どうしたら皆に理解してもらえるのか考えながら、レジュメやスライドを制作していきます。普段の授業では、講師の話を聞く受け身の授業が多いと思いますが、このゼミでは自発的に発信していく機会が多いのが特徴です。個人的には、こういった経験が、就職活動にも役立っていたと思います。
 授業とは少し離れますが、毎年楽しみにしていたのが、ゼミ有志での見学旅行です。ゼミの課外活動で都内の美術館を訪れることはありますが、見学旅行では、金沢など普段授業では行けない遠方に足を運びます。訪れた中の一つが、金沢21世紀美術館でした。「まちに開かれた公園のような美術館」が建築コンセプトであり、その名の通り、一般的な美術館のイメージとは異なる外観でした。壁の大半がガラスでできており、自由に中と外を行き来することができます。また、美術館を訪れた方には、周辺の商店街でサービスを受けられたりする仕組みをとり、美術館が周辺地域と積極的に関わった活動をしていました。この金沢への旅行が、私の卒業論文のテーマである地域活性化とアートに関して研究したいと感じたきっかけになりました。
 こうしたゼミでの活動を通して、就職活動をする際に、建築や空間デザインに携わりたいと想うようになりました。そして、建物の雰囲気や印象を決める、内外装材の施工メーカーに就職を決めました。現在は、店舗の空間デザインを行うお取引先等に、内外装材の営業を行っています。内外装デザインの提案から竣工までを請け負っています。価値のある空間を、何もない状態から作り上げていくことは大変ですが、とてもやりがいを感じています。これからも、アートや建築に携わり、アートの面白さを発信できる仕事をしたいと思っています。
 卒業して就職した今、ゼミでの時を振り返ってみると、こんなにも積極的に興味を持ち、自ら行動して学んだことは初めてでした。大学を卒業した時に、何かに打ち込んだことが有るのとないのとでは、大きく違います。私にとってはそれがゼミでした。せっかく大学に通うのならば、積極的に打ち込めること、熱中できることを見つけてください。充実した大学生活を過ごしてもらえたらなと思います。それが美術史ゼミであればうれしいです。