阿部 成樹 教授 | ABE Shigeki, professor

‣学位・資格:美術史学博士(パリ大学)/文学修士(東北大学)/学芸員資格
‣出身校:パリ大学博士課程/東北大学大学院文学研究科(美学・美術史学専攻)・同文学部美学・西洋美術史専攻/石川県立金沢二水高校
‣留学:1989-93年 フランス政府給費留学
‣専門分野:フランス近代美術史(18-19世紀)およびフランスの美術史学の歴史

‣新古典主義(特にJ.-L. ダヴィッド、J.-A.-D. アングル)を中心とするフランス近代美術史:パリ大学に提出の博士論文『アングルとダヴィッド派の芸術:歴史的・比較論的研究』1995では、とくに「流派」という芸術家の集団が果たした役割に注目しました。
‣「新古典主義 Neo-classicism」とは、古代ギリシア・ローマの美術にならって美術史に画期をもたらしたルネサンス時代の古典主義の再来、という意味です。だいたい18世紀半ば過ぎに生まれ、19世紀後半まで生きながらえたヨーロッパ美術のスタイルです。
‣新古典主義美術が、古代ギリシア・ローマの美術をひとつの模範としていたことは確かです。それによって、新古典主義の彫刻を代表するカノーヴァのように、静穏で洗練された作品が生み出されました。新古典主義の画家たちもまた、古代の著名な彫刻作品を画中に取り込むなどしていました。
‣しかし、新古典主義絵画には、それだけでは説明がつかない側面がいろいろあります。また、平面的でクリアな線描を基礎とするスタイルは、ピカソやマティスのような20世紀初めの西洋絵画ともつながりがあります。さらに時空を超えて、日本の絵画と比較することもできるでしょう。変幻自在な新古典主義美術のスタイルは、広く追跡する価値がありそうです。
‣アンリ・フォシヨンの美術史学:20世紀前半のフランスで活躍した美術史家の考えをたどることを通して、「美術史」が人類学や歴史学など他の人文科学と密接なつながりを持ち、今以上に広い分野を対象にしていた/することができたのではないかということを研究しています。
‣年表のように流れていく「美術史」とは違う、フォシヨンが構想していた「かたちの宇宙」としての美術史とは?興味のある方はこちらをご覧ください。「流れない美術史:アンリ・フォシヨンの思索の現代性」

主な刊行物

‣阿部成樹『アンリ・フォシヨンと未完の美術史 かたち・生命・歴史』岩波書店、2019年

‣20世紀を代表する美術史家のひとりフォシヨン(1881-1943)の斬新な作品観、歴史観、人間観を明らかにすることで、彼の美術史学が人間存在の探究であり、今なおアクチュアルな意義をもつものであることを解明しようとした著作です。同時に、そうした彼の考え方が、民主的な社会を擁護しナチズムと対決する姿勢と地続きであることも論じています。美術史のみならず、アナール派をはじめとする歴史学やデュルケーム学派の社会学、文化圏説をはじめとする人類学、ブレアルやメイエの言語学、そして「ホロジェネシス(全発生)」の進化生物学など多領域にわたる議論が展開されます。

‣【目次】序章 フォシヨンへのアプローチ ──過去と現在|第1章 「かたちの生命」の思想|第2章 自己形成 ──手、手仕事、社会|第3章 ヨーロッパ像の回復 ──近代絵画のパノラマと美術館|第4章 変容と残存の交響 ──人間学としての歴史学と中世美術|第5章 社会的次元 ──社会学、そして人類学の視点|第6章 かたちの生命/生命のかたち|終章 暴風の季節

‣「キリンの斑と雪と土器」『図書』1月号、岩波書店、2022年

‣「かたち・装飾・生命」『ユリイカ』5月号(特集=アンリ・マティス)、青土社、2021年

‣「美術アカデミー:美術を教えることは可能か」美学会編『美学の事典』丸善出版、2020年

‣「様式と歴史」『西洋美術研究 特集:美術史学の方法と実践』20号、三元社、2020年

‣「変容の地平 ──アンリ・フォシヨンの思索から」陳岡めぐみ編『国際シンポジウム「時の作用」』国立西洋美術館、2014年

‣石鍋真澄ほか編著『ルネサンス美術館』小学館、2008年(第​4​章​第​3​節​​「フ​ォ​ン​テ​ー​ヌ​ブ​ロ​ー​派​の​裸​体​表​現」執筆)

‣「手仕事と個 ──オクタヴ・タッセールのアトリエ図」『西洋美術研究 特集:芸術家伝説』13号、三元社、2007年

‣小佐野重利編著『旅を糧とする芸術家』三元社、2006年(第5章「横​断​と​遡​行​―​1​8​世​紀​フ​ラ​ン​ス​の​画​家​た​ち​と​イ​タ​リ​ア」執筆)

‣アルバート・ボイム(森・阿部・荒木訳)『アカデミーとフランス近代絵画』三元社、2005年

‣アンリ・フォシヨン(阿部成樹訳)『かたちの生命』ちくま学芸文庫、2004年

‣ジャン・ラコスト(阿部成樹訳)『芸術哲学入門』白水社(文庫クセジュ)、2002年

‣ドーラ&アーウィン・パノフスキー(尾崎・阿部・菅野訳)『パンドラの匣』法政大学出版局、2001年

‣アンドレ・シャステル(阿部成樹訳)『ルネサンスの神話』平凡社、2000年

‣さらに詳しくは、こちら(Researchmap

その他の関心分野

19-20世紀の建築、デザイン、写真など。これらについては卒業研究の指導も行います。

主な担当科目

フランス美術史(1年次)、美術史概論A、美術史美術館入門演習(1)(2年次)、美術史美術館専門演習(ゼミ)(3ー4年次)、卒業論文、大学院修士課程・博士課程科目、修士論文、博士論文

泉 美知子 准教授 |IZUMI Michiko, associate professor

‣学位:学術博士(東京大学)/文学修士(慶応義塾大学)
‣出身校:東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻(博士課程)/慶應義塾大学大学院文学研究科仏文学専攻(修士課程)/慶應義塾大学文学部文学科英米文学専攻/和歌山県立田辺高校
‣専門分野:近代フランスにおける美術制度(美術館・文化遺産保護・美術史学)、19世紀フランスの美術批評、文学作品における建築の表象

‣〈テーマ1 美術制度〉美術館や文化遺産保護といった制度は、ヨーロッパの長い歴史を考えれば200年ほど前に誕生したにすぎません。フランスでは大革命によって王政が崩壊し、近代社会の到来によってこの制度が成立しました。今日私たちが当然だと思っている「文化遺産」の思想、つまり過去から受け継いだ作品を保護あるいは保存し後世に継承するといった考え方が、どのような歴史的背景のもとで生まれ、発展していったのか、これが東京大学に提出した博士論文の大きなテーマです。
‣〈テーマ2 中世美術の再評価〉ただ上記のテーマだけでは分析を深められません。次に問題にしたのは、何を保護し、保存するかということです。ヨーロッパの美術の歴史において、近代社会の到来は新たな価値観をもたらし、19世紀には忘れ去られていた作品の再発見や再評価が積極的になされます。その中で注目したのが、16世紀以降“野蛮な”という形容詞で貶められていた中世美術を再評価する動きです。
‣〈テーマ3 美術研究の広がりと可能性〉ある作品がなぜ「美術品」と見なされ、特別なものとなるのか、そこには価値を見出す眼差しの存在があります。博士論文の執筆を通して学んだことは、この眼差しが複雑な文脈から生まれるということです。その文脈を解きほぐしていく作業のなかで、政治、経済、宗教、思想など多岐に渡る問題との関わりが見えてきます。今日の社会においても、あるモノが何かの文脈に関連づけられることによって、違うものに見え価値が増大することがあります。価値を見出す楽しさを、美術研究を通して学んでください。

‣「文化遺産」についてより詳しくは、こちらもご覧ください。『文化遺産』とは何か
主な刊行物

‣泉美知子『文化遺産としての中世 ──近代フランスの知・制度・感性に見る過去の保存』三元社、2013年 《第31回渋沢・クローデル賞本賞受賞》

‣文化財保護理念、確立の道程。
国家として、国民として、どのような遺産を継承するのか。大革命後の破壊を契機にその問いに直面したフランス。文化財保護制度の確立に奔走する人々、中世芸術蔑視と闘いながら学問的位置づけを果たした美術史家、遺産が同時代人の内面といかにむすびついているかを示した文学者──彼らの活動を追い、「文化遺産」という思想生成の道程を検証します。  

‣【目次】第 I 部 国民芸術の創出──美術館と美術史言説 はじめに──フランス記念物美術館の誕生/第1章 比較彫刻美術館──ヴィオレ=ル=デュック/第2章 ルーヴル美術館とルーヴル美術学校 ──ルイ・クラジョ | 第 II 部 一九世紀の美術行政 ──美術史学と文化財保護の制度化 はじめに──遺産の教育/第 3 章 美術史学の成立と教育改革/第 4 章 文化財保護制度/第 5 章 ソルボンヌ大学の中世美術史学 ──エミール・マール | 第 III 部 文化遺産の生とは何か ──世紀転換期における作家たちの保存論 はじめに ──一九世紀初頭の美術館批判/第 6 章 宗教的コンテクストの再発見/第 7 章 保存の美学/第 8 章 記憶の場としての教会堂 | 結論

‣「“古きパリ”の誕生 ──フランス革命後のもう一つの都市再生」(第3章)、熊谷謙介編『破壊のあとの都市空間 ──ポスト・カタストロフィーの記憶』青弓社、2017年

‣「国民芸術の歴史をどのように記述するか──1900年パリ万博「フランス芸術回顧展」の考察」『西洋美術研究 特集:記憶と忘却』17号、三元社、2013年

‣さらに詳しくは、こちら(Researchmap

その他の関心分野

美術制度における日仏比較、美術と映画・マンガの関係、今日の社会とアートの関係。これらについては卒業研究の指導も行います。

主な担当科目

美術史概論B、美術史美術館入門演習(2)(以上2年次)、美術史各論(1)、美術史美術館専門演習(ゼミ)(以上3ー4年次)、卒業論文、大学院修士課程・博士課程科目、修士論文

2023年度 兼任講師 |lecturers

  • 渡辺眞弓兼任講師/多摩美術大学美術館学芸員
    • 出身校・学位:中央大学文学部フランス語文学文化専攻/大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了(西洋美術史を専攻)、修士(文学)
    • 専門:フランス近代美術史、とくにギュスターヴ・モロー
    • 主な担当展覧会:「寺田小太郎 いのちの記録展」(2021)、「そうぞうのマテリアル」(2022)ほか
    • 担当科目:「美術史美術館演習」(3年次)…日本と海外の美術館の現状と多様性。前期授業では、「アートと新しい公共のかたち」を大きなテーマとします。歴史的・社会的な文脈を紐解きながら、共通の価値感を見い出しにくい現代社会のなかで、アートを媒体とした共同体創生の可能性について考えます。後期授業では、社会にコミットし、社会的問題に直接働きかけることでより良い社会モデルの提示や構築を目指そうとする現代アートの一つの潮流に着目します。フランスを中心に、社会的課題に立ち向かうアーティストの活動、美術館の教育プログラムやアートプロジェクトの事例研究およびフィールドワークを行い、アートによる具体的な課題解決の糸口を模索します。
  • 和田菜穂子兼任講師/東京建築アクセスポイント代表/東京家政大学准教授
  • 岸 佑兼任講師/東洋大学客員研究員・国際基督教大学 アジア文化研究所 研究員・青山学院大学ほか非常勤講師 2023年度新任
    • 出身:国際基督教大学大学院 比較文化研究科 比較文化専攻博士課程
    • 専門:日本・欧米のモダニズム建築、近現代建築史
    • 担当科目:「美術史各論(3)B」(2−4年次)…20世紀初頭の欧米から広がった、鉄・ガラス・コンクリートの幾何学的なモダニズム建築は、世界中の都市と建物の様相を一変させました。しかし、これらの建築は1960年代頃からさまざまな側面から批判され、モダニズム建築の乗り越えが試みられています。とりわけ1990年代以降、テクノロジーの進化により都市建築デザインは新たなフェーズへ入りはじめています。本講義では、20世紀後半の都市と建築のデザインについて概観しながら、現代の都市建築デザインに対する見識を養うことを目的とします。授業は講義形式を基本としますが、学生によるプレゼンテーション等を盛り込み、インタラクティブな授業形態を試みます。
  • 永井裕子兼任講師/昭和女子大学専任講師
    • 学位:美術史学博士/ローマ大学
    • 専門:イタリアを中心とするルネサンス美術史
    • 主な刊行物:『オリジナルとコピー 16世紀および17世紀における複製画の変遷』三元社(2019)、『ティツィアーノとヴェネツィア派展』カタログ(2017)、『ルネサンスの巨匠:ミケランジェロ展』カタログ(2016)、『ウフィツィ美術館自画像コレクション展』カタログ(2010)いずれも編集補助、共著、翻訳)
    • 担当科目:
      • 「西洋美術史(近代以前)」(1−4年次)…古代ギリシア・古代ローマから16世紀までの西洋美術の概論を学びます。美術作品は制作された時代の文化を反映しており、絵画や彫刻作品を知ることでその背後にある歴史を学ぶことができます。写真や映像など豊富な視覚資料を参照しながら、時代の流れのなかでの芸術の展開に対する理解を深めて下さい。
      • 「西洋美術史(近現代)」(1−4年次)…17世紀バロックから20世紀までの西洋美術の概論を学びます。美術作品は制作された時代の文化を反映しており、絵画や彫刻作品を知ることでその背後にある歴史を学ぶことができます。写真や映像など豊富な視覚資料を参照しながら、時代の流れのなかでの芸術の展開に対する理解を深めて下さい。
      • 「美術史各論(4)」(2−4年次)…イタリア・ルネサンス美術史。イタリア・ルネサンスの主要な芸術家と作品を学びながら、この時代の美術の流れを概観します。ルネサンス黎明期、初期ルネサンス、盛期ルネサンスを軸として芸術の展開を見ていきます。数多くの図版や映像資料を使います。